「フッ素塗布」と聞いたことはありますか?
多くの方は、「ああ、子どもの時に歯医者さんで塗ってもらうやつ」と思い返されたかと思います。
子ども向けのむし歯予防、というイメージの強いフッ素。
しかし実は、大人の歯にもやさしく、しっかりと効果を発揮してくれる心強い存在なのです。
今回は、「フッ素塗布」について、深堀りしていきましょう。
目次
「水兵リーベ ぼくの船…」と指折り歌って元素記号を覚えた大人の方も多いのではないでしょうか。
「船」の「ふ」の語呂合わせにあたるのが「フッ素(F)」で、これのことでしょ!と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、むし歯予防に使われるフッ素はこの元素そのものを指しているわけではありません。
正確にはフッ素が他の物質とくっついた、「フッ化物」を使っているのです。
このコラムでは簡単に、「フッ化物」を「フッ素」と呼んでいきますね。
フッ素は、歯の表面を強くし、むし歯の原因となる酸から守ってくれるミネラルの一種です。
私たちの歯は日々、酸によって溶かされ(脱灰)、唾液によって修復される(再石灰化)というサイクルを繰り返しています。
フッ素はこのサイクルに寄り添い、むし歯を予防する3つの働きをしてくれます。
■ 歯を強くする(耐酸性の向上)
フッ素は歯の表面(エナメル質)に取り込まれることで、酸に溶けにくい「フルオロアパタイト」という構造を作ります。これにより、むし歯菌が出す酸に負けにくい歯を育ててくれます。
■ 歯の再石灰化を促進する
毎日の食事や間食によって、歯は少しずつ溶けてしまいますが、フッ素はその修復(再石灰化)を手助けしてくれます。
歯のミネラル補給をスムーズにしてくれる、いわばサポーターのような役割です。
■ むし歯菌の働きを抑える
フッ素には、むし歯の原因となる細菌の活動を抑える効果もあります。
酸を作る能力を弱めてくれるので、むし歯になりにくい環境づくりに一役買ってくれます。
歯の表面にはエナメル質と呼ばれる層があり、歯をむし歯から守っています。
しかしこのエナメル質、永久歯より乳歯が薄く、つまりは大人より子どもの歯の方がむし歯になりやすいのです。また、永久歯が生えてから2〜3年ほどはむし歯のリスクが高い状態になります。
つまり、大人よりもむし歯になりやすい歯を守るためにフッ素塗布を行うのが、子どものフッ素塗布の目的です。
では、なぜフッ素塗布が大人にも勧められるのでしょうか。
その背景には、大人ならではの口の中の変化があります。
例えば、加齢や歯周病によって歯ぐきが下がると、歯の根元(象牙質)が露出してきます。ここはエナメル質よりも酸に弱く、むし歯になりやすい部分です。
昔はむし歯が無かった人でも、「最近急に根元が黒くなってきた」「知覚過敏が増えた」といった悩みが出てくるのはこのためです。
このような理由から、大人のフッ素塗布も、トレンドになってきました。
■ フッ素塗布、どうやって受けるの?
歯科医院で受けられるフッ素塗布は、通常の歯のクリーニングと組み合わせて行われることが多く、歯を綺麗にした後に、仕上げとして専用の高濃度フッ素ジェルを塗布します。時間も短く、痛みもありません。
頻度としては、3ヶ月〜半年に1度程度が目安です。
定期的に続けることで、歯の質そのものを強くし、むし歯リスクを長期的に下げていくことができます。
■ 市販のものではだめ?
市販のものでも大丈夫です!
市販の歯磨き粉には、フッ素入りのものがあります。
しかし、私個人としては断然、歯科医院でのフッ素塗布をおすすめします。
何が違うのかというと、フッ素の濃度です。
高濃度なほどフッ素塗布の効果は高くなりのですが、市販で購入できるフッ素は濃度が高くても1450ppm(ppmは濃度を表す単位)ほど、対して歯科医院で使用されているフッ素は9000ppmほどです。
歯科医院でフッ素塗布を受ける方が、はるかに効果が高いのがわかります。
また、歯科医院では技術を持った歯科衛生士さんがしっかり担当するので、より効果が高まります。
大人になって、子どものころのように何かを「予防」することにピンとこなくなっている方も多いかもしれません。でも、口の健康は体の健康ともつながっています。
フッ素塗布は「治療」ではなく「未来の自分への投資」です。
むし歯になって歯を削ったり抜いたりしなければならなくなる前に、できることがあります。
ぜひ、次の定期検診の時には、「フッ素塗ってもらえますか?」と気軽に聞いてみてくださいね。
年齢に関係なく、歯にやさしい習慣は、きっとあなたの笑顔をもっと長持ちさせてくれるはずです。
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